この坊ちゃまに、田中局長は付き添うしかなかった。
「もしもし」ポケットの携帯が鳴り、田中局長が電話に出ると、江渡からの番号だった。「着いた?私は陽城第一高校の入り口にいるから、そのまま車で来てくれ」
そう言って、田中局長は具体的な位置を相手に送信した。
30分後、道路の向かい側に一台の車が停まり、運転席から黒のマウンテンパーカーを着た青年が降りてきた。短髪で、小麦色の肌、目は輝くように鋭かった。
「恭介」田中局長は手を上げて、相手を呼んだ。
田中局長を見た田中恭介は一瞬足を止め、こちらへゆっくりと歩いてきた。その視線は田中局長の足元にしゃがんでいる木村翼に留まった。
木村翼の写真はほとんど流出していない。木村家が彼をよく保護していたからだ。
しかし田中恭介は田中当主と共に会ったことがあった。