この坊ちゃまに、田中局長は付き添うしかなかった。
「もしもし」ポケットの携帯が鳴り、田中局長が電話に出ると、江渡からの番号だった。「着いた?私は陽城第一高校の入り口にいるから、そのまま車で来てくれ」
そう言って、田中局長は具体的な位置を相手に送信した。
30分後、道路の向かい側に一台の車が停まり、運転席から黒のマウンテンパーカーを着た青年が降りてきた。短髪で、小麦色の肌、目は輝くように鋭かった。
「恭介」田中局長は手を上げて、相手を呼んだ。
田中局長を見た田中恭介は一瞬足を止め、こちらへゆっくりと歩いてきた。その視線は田中局長の足元にしゃがんでいる木村翼に留まった。
木村翼の写真はほとんど流出していない。木村家が彼をよく保護していたからだ。
しかし田中恭介は田中当主と共に会ったことがあった。
田中局長は田中家では目立たない存在で、いつも使い走りだったが、ここ一ヶ月で発言力が少しずつ高まり、その政策と戦略が頻繁に称賛されるようになっていた……
今、田中局長が木村翼を一人で連れているのを見て。
木村坊ちゃまがこんなに田中局長を信頼しているとは言うまでもなく、噂の木村翼の変わった性格で、彼が大人しく田中局長の傍にしゃがんでいるなんて?
田中恭介は心中で驚いた。田中長邦という傍系の者が、どうやってここまでできたのか?
鉱産プロジェクトを獲得できなかったと聞いていたのに?
「局長」田中恭介は田中局長から3歩離れた位置に立ち、5センチ幅の黒い木箱を田中局長に渡した。「これが遠山弁護士の求めていたものです」
田中局長はそれを受け取った。
これは遠山貴雲のバッジだった。
「しかし陽城市にどんな事件があって彼の手を借りる必要があるんですか?」江渡の人間として、田中恭介は木村浩配下の悪魔の弁護士団、特に遠山貴雲のことをよく知っていた。
それを聞いて、田中局長は微笑むだけだった。「地元の殺人事件で、明日開廷です。見に行きたいですか?私の席を譲ることもできますよ」
遠山貴雲は今は教育に専念している。
木村家の案件以外は、他の依頼はほとんど受けていない。
地元の事件?
田中恭介は首を振った。彼にはそんな興味はなかった。「結構です。明日は格闘場でトンパ先生に会う予定です」