青龍バーは評判が高かった。
中には様々な人物が入り混じっていたが、誰も中で事を起こす勇気はなかった。それは、中のボディーガードと警備員が普通の人間ではないからだ。前に中で事を起こした者は、今では消息すら分からない。
バーには人が多いが、上層部を見たことがある人は少ない。
背後にはドーソン家がいると言われている。
今日は初めてバーの内部スタッフを見た。
周りの人々の視線が、思わずこの静かな男性に注がれた。前髪が揃った黒髪、シンプルな白いジャケット、清潔で美しく、バーの人間とは思えない雰囲気だった。
姉さん?
誰に向かって呼びかけているのだろう?
田中局長と田中恭介も、この人が呼んでいる「姉さん」は誰なのかと見回していた。
見ているうちに、この静かで少し照れ屋に見える男性が彼らの前で立ち止まり、「姉さん、どうしてここに?」と声をかけた。
もう一度呼びかけた。
その一声で、田中局長と田中恭介はようやく気付いた。黒水通りを歩く女性は元々少なく、数少ない女性たちは皆実力者で、膝には目立つナイフを差している。
そして田中局長たちの側には——
田中局長と田中恭介は思わず白川華怜を見た。周りで唯一の女性だった。
白川華怜はまだイヤホンを外していなかった。彼女は適当に単語を消して、頭を上げてななを見た。「試合を見に来たの」
そう言われて、ななは理解した。
伊藤満の試合を見に来たのだと。
彼の後ろの銀色のSUVは一時停止した後、前に進み続けた。
ななの容姿は人を欺くほど清秀で、特にその黒々とした瞳は、よく見ると、ある角度から白川華怜と同じような冷静さを見出すことができた。
田中局長は我に返り、ななに挨拶をした。「君は...」
「私も清水通りの孤児院出身です」ななは田中局長を見て、とても礼儀正しく答えた。「青龍バーで働いています」
雑用係で、時々デザイナーも兼任している。
田中局長は理解した。
なるほど、白川華怜と知り合いなわけだ。しかも親しそうで、直接「姉さん」と呼んでいる。木村翼でさえ直接姉さんとは呼ばない。
彼はスマートフォンを取り出し、すぐにななとWeChatを交換した。
ななも拒否せず、「なな、伊藤ななです」と答えた。