二人とも階段を降りてくるのは木村翼だと思っていた。
木村翼の存在は二人とも知っていた。木村浩はどこにいても彼を連れていたからだ。
木製の階段の曲がり角に、雪青色のグラデーションのスカートの裾が見えた。
スカートには枝垂れ梅の刺繍が施されていた。
歩みに合わせて、一段一段と広がっていく。
二人は思わず顔を上げた。一人の女性だった。墨を流したような長い髪を木の簪で結い上げ、その顔は慵懶で艶やかだった。田中恭介は思い出した。前回会った女性だった。
なぜ彼女が?
しかも上の階から降りてきた?
田中恭介は驚いた。
木村浩はようやく白川華怜の方を見て、後ろの子供の姿が見えないことに気づき、「絵を教えるのに夢中で降りてくるのを忘れたのかと思った」と言った。
白川華怜はゆっくりと顔を上げた。「……?」
明石真治も少し呆然としていた。
白川華怜は足早に歩き、木村浩も明石真治も他の二人を紹介しなかったので、彼女も何も言わなかった。
ただ彼の側まで来ると、声を低めて「私はしていない」と言った。
木村浩は物憂げに彼女を見下ろした。
信じていない様子だった。
二人は外へ向かった。
しばらくして、彼はまた尋ねた。「彼の絵は本当に僕より上手いのか?」
白川華怜は平然とした顔で「あなたほど上手くないわ。あなたは写実派でしょう。もう一度あなたの猫を見てみる?」
彼女は手を後ろに回して携帯を取り出した。
木村坊ちゃまは何も言えず、無表情で彼女が写真を開こうとする動作を止めた。
彼は初めて写実派という言葉に嘲笑の意味を感じた。
「……」
外から車のエンジンの音が聞こえてきた。
ホールにはまだ三人が立ち尽くしていた。
今になってようやく理解したようだ。つまり……
さっきの木村坊ちゃまは誰かを待っていたの????
世界が不思議なものに見え始めた。
明石真治は大きな波風を見慣れていたので、すぐに我に返った。
他の二人はかなり混乱していた。特に以前白川華怜に会ったことのある田中恭介は、田中家の老当主でさえ彼を待たせることはなかったのに。
明石真治は田中恭介のことは気にせず、ただ「吉田様、吉田様?」と吉田瑞希を呼んだ。
吉田瑞希はぼんやりと我に返り、明石真治の方を振り向いて「明石さん、さっきの方は……」