渡辺文寺を驚かせたのは。
車のナンバーが江渡のものだった。
二人の前にしっかりと停車し、助手席の窓が下がった。
渡辺文寺はようやく運転席に座っている人物をはっきりと見ることができた。相手はBluetoothイヤホンを着けており、さっきまで誰かと話していたようだった。黒いシャツの袖を軽く捲り上げ、長い指先をハンドルに添え、わずかに横を向いて渡辺文寺を一瞥した。
骨の髄まで染み付いた高慢さがあった。
一目見ただけで、その冷たさに身が凍る思いだった。
「さようなら」白川華怜は車のドアを開け、渡辺文寺に軽く頷いた。その態度は冷たくもなく親しくもなく、絶妙な距離感を保っていた。
渡辺文寺が我に返った時には、窓は上がり、青い車は遠ざかっていた。
「文寺」門の中から安藤蘭は渡辺文寺がぼんやりと門の前に立っているのを見て、思わず声をかけた。「まだ外に立ってるの?」