113 神秘めいた白川さん

伊藤満は頭を掻いた。

白川華怜が何をするつもりなのか分からなかった。大きな荷物の運び出しでも手伝うのかと思っていたので、人手が足りないかと心配していた。ななから白川華怜が到着したと連絡がなければ、もっと人を集めようとしていたところだった。

白川華怜はバーに向かって歩き続けながら、「荷物はトランクにあるわ。中に運んで」と言った。

伊藤満は手を振って指示を出した。黒服のボディーガードがトランクを開けると、質量分析装置が置かれているのが見えた。

「お二人の先生」ボディーガードたちは当然、質量分析装置など見たことがなく、精密そうな機器なので触るのを躊躇した。「これ、このまま運んでも大丈夫でしょうか?」

ボディーガードは車の後部ドアに手を置いたまま。

恐ろしげな顔つきながら、白衣を着て胸に名札を付けた中田先生に丁寧に尋ねた。

「あ」冷たい風が吹き抜け、中田先生はようやく我に返った。「……ボタンに触らなければ、そのまま運んで大丈夫です」

許可が出た。

黒服のボディーガードたちはすぐに動き出し、ディスプレイ、分析器、色差計……

四人のボディーガードがそれぞれ慎重に一つずつ抱えて中に入っていった。

機器を落とすのを恐れて、歩幅も特に小さくしていた。

「お二人の先生」ボディーガードは再び渡辺助手と中田先生に体を傾け、「どうぞ」という仕草をした。「伊藤坊ちゃまがお二人をお呼びです」

渡辺助手は足取りがふらついていた。これは初めて「お」付けで呼ばれた経験だった。

しかも黒水通りのボディーガードに。

渡辺泉と共に数々の大舞台を経験してきた渡辺助手でさえ、信じがたい状況だった。彼は中田先生と視線を交わし、頭がクラクラしながら中に入っていった。

中田先生は少し首を傾げ、明らかに質問を含んだ目で渡辺助手を見た——

【白川さんは一体何者なんですか?】

渡辺助手は彼以上に困惑していた。

彼も白川華怜についてあまり知らず、今は頭の中が混乱していて、どうして分かるだろうか?

バーの内部は広く、三階建てだった。

一階は煙が立ち込め、カラフルな光が点滅し、中央のステージを人々が取り囲んでいた。隅でタバコを吸いお酒を飲んでいた人々は、ボディーガードの一団が現れるのを見て、こちらを一瞥した。

しかし、愚かにも事を起こそうとする者はいなかった。