すれ違いざまに、彼は白川華怜のあまりにも優れた顔に気づき、もう一度見つめた。
他人がダウンジャケットを着ると少しもたつく感じがするのに、白川華怜は特に痩せて見えた。白いダウンコートには精巧な蔦と猫の刺繍が施され、背が高くて、色白で、その顔は艶やかでありながら媚びることなく、眼差しは物憂げだった。
「あれは誰?」高橋謙治は振り返ってもう一度見た。
側にいたスタッフが振り返って、「研修生だと思います」と答えた。
高橋謙治は頷いた。
白川華怜が広報室に着くと、校門にも一行が到着したところだった。
ほぼ同時だった。
広報室。
責任者と木場院長が揃っていて、室内は暖房が効いていた。白川華怜が手を伸ばしてドアを閉めようとすると。
木場院長はお茶を置き、手を上げて、「閉める必要はない、そのまま入って座りなさい」と言った。
白川華怜はドアを閉めなかった。
広報室の責任者は木場院長が待っていた人が白川華怜だと知っても驚かなかった。もっと驚くべきことを見てきたからだ。「白川くん、お茶をどうぞ」
彼は白川華怜に熱いお茶を注いだ。
「ありがとうございます」白川華怜は彼に礼を言った。
責任者は慌てて手を振った。「どういたしまして」
彼は席に戻り、さりげなく白川華怜を観察した。この学生のどこが特別なのか分からないが、木村坊ちゃまと木場院長の両方が彼女に対して特別な態度を取っているようだった。
「なぜ暗黒物質を研究しないんだ?」木場院長は白川華怜に対して遠慮なく尋ねた。二人は数ヶ月前からLINEでやり取りをしていた。
二人とも社交的だった。
責任者は心の中で突っ込んだ。木場院長はいつも通り直接的だ。暗黒物質は誰でも研究できるものではない。国内には暗黒物質研究所が二つしかなく、入るのは簡単ではない。高橋博士でさえ入れなかったのだ。
白川華怜はお茶を飲み干して、「興味がないので」と答えた。
責任者:「……?」
何?興味がない?
お茶を吹く動作をしていた責任者は、熱いお茶で火傷しそうになった。
「そうだ、やはり量子力学の方が面白い」木場院長は頷いた。彼は明らかに喜んでいた。お茶を一口飲んで責任者を見上げると、顔のしわを伸ばして、率直に言った。「口元にお茶の葉が付いていますよ」
彼は責任者の左口角を指さした。