「江渡に何しに来たの?」藤野院長は彼女に尋ねた。
白川華怜はお茶を一口飲んで答えた。「進学準備です。来年、大学受験があります。」
藤野院長は彼女を再び見つめた。「江渡大学を受験するつもりなの?先生は止めないの?」
藤野院長は彼女に非常に優れた師匠がいることを知っていたので、彼女を弟子にできるとは全く考えていなかった。ただお箏の宗家の地位を引き継いでもらえればと願っていた。
首席という称号を受け継いでもらうことを。
「あの方ですか?」白川華怜は少し考えて、御琴堂先生のことを指していると理解した。「時間がないんです。」
というのも、毎日ぶつぶつ文句を言いながら御所で演奏しなければならないから。
時には文羽天皇の後宮たちが、彼女たち専用の曲を作るよう要求してきた。
そのせいで御琴堂先生はある時期、お箏を見るのも嫌になってしまった。だから白川華怜が今、歴史書で御琴堂先生について「謙虚な君子」という描写を見ると...とても違和感を覚える。