明後日も受付があるので、家に帰らずホテルに部屋を取った。
「お兄さん、あの子を放っておくの?」渡辺瑞恵はため息をつきながら言った。「笹美は確かにわがままだけど、安藤家のことで...大事なことを台無しにするなんて。あのチケットが彼にとってどれだけ重要か、分かってるでしょう。」
渡辺瑞恵には全く理解できなかった。他の重要な事で斉藤家と揉めるならまだしも。
それなのに安藤家のことで揉めるなんて。彼女に言わせれば、安藤家百軒分でも斉藤家一軒には及ばない。
安藤蘭は横で黙って立っていた。彼女はそのチケットのことについて詳しくは知らなかった。
しかし、それが自分の手の届かない領域だということは分かっていた。渡辺瑞恵の言葉に含みがあることに気付き、最近渡辺お婆さんが結婚式に不満を漏らしていた理由が少し分かった気がした。
渡辺泉はタバコを一本取り出し、「これは些細なことで大事を損なうわけじゃない」と言った。
「これが大事じゃないって...」渡辺瑞恵は眉をひそめた。
「叔母さん」渡辺文寺は立ち止まり、渡辺瑞恵を見た。「僕、午後に講演を聴きに行ってきました。」
「え?」
渡辺文寺は大切に保管していた青いチケットを取り出し、彼女に見せた。「木場院長の講演です。聴いてきました。」
渡辺泉もそのチケットに驚いた。「それどこで手に入れたんだ?」
科学研究界の学術講演は、聴きたいからといって簡単に聴けるものではない。
「華怜さんからもらいました」渡辺文寺は静かに答えた。
渡辺瑞恵はその人物が誰なのか思い出し、非常に驚いた。「彼女が?」
どうやってチケットを手に入れたの??
渡辺泉は白川華怜だと聞いて、一瞬驚いた後、頷いて落ち着いた。「なるほど」
白川華怜はいつも変わった人たちと知り合いだった。彼女なら渡辺泉も不思議に思わない。結局...田中局長でさえ白川さんと呼ぶ人物なのだから。
チケットを手に入れることができただけでなく、渡辺泉は考えた。今や白川華怜は木場院長とも知り合いなのかもしれない、それもそれほど驚くことではないだろう。
渡辺瑞恵は午後から渡辺助手の安藤家の人々に対する態度がとても奇妙だと感じていたが、今の渡辺泉の態度を見て更に驚いた。いったい安藤家はどういう人たちなんだろう?