148 木場院長の期待、彼女の得意分野に出会う

渡辺文寺は白川華怜から返されたノートを手に取り、驚きの表情を浮かべる中、遠くにいた二人が近づいてきた。

「少し遅かったですね」白川華怜は右手をスーツケースの持ち手に置き、白いジャケットを腕に無造作に掛けていた。

木村浩は渡辺文寺と面識があったため、ここで彼を見かけても驚かなかった。

白川華怜の言葉を聞いて、木村浩は隣にいる木場院長に冷ややかな視線を向けた。

木場院長は今日出発する時になってナンバープレート規制に気付き、木村家の運転手に遠回りで迎えに来てもらったのだが、少しも気まずい様子もなく、白川華怜に話しかけた。「あと160日よ。決して勉強を怠ってはいけない」

「分かっています」白川華怜は頷いた。

木場院長は白川華怜の理解力をよく知っていた。ただ、こんなに空間認識能力と理解力の高い人物がなぜ今まで発見されなかったのか不思議に思っていた。「総説を読み終えたら、優れた修士・博士論文をいくつか読んでみるといい」

「ふん」傍らで二人の会話を待っていた木村浩は、これを聞いて冷笑を漏らした。

木場院長の言う「優れた」という言葉に疑問を呈したのだ。

確かに今は粗悪な論文も多い。木場院長も反論できなかった。「...新しい文献リストを作っておこう。まずは専門用語と解説から始めましょう」

トップジャーナルについては、白川華怜にはまだ触れる資格がない。小さな範囲から育成していく必要がある。一部の学閥家系では子供の頃から科学研究の精神を育んでいるが、白川華怜の啓蒙は決して早くはなかった。

「飛行機の時間です」木村浩は二人の会話を邪魔せず、白川華怜のスーツケースの持ち手に手を置き、だらしなく立ちながら、5時50分になった時に注意を促した。

彼らの航空便は6時から9時の間だった。

最後に木場院長は白川華怜を見つめ、「江渡で待っているよ」と言った。

二人がようやく話し終えたのを見て、木村浩は持ち手を軽く指で叩きながら、いつもの冷たい表情で横目で見て尋ねた。「どこに戻る?」

渡辺文寺に向かって聞いたのだ。

「学、学校です」渡辺文寺は木場院長に視線を向けたまま、まだ我に返っていなかった。

それなら江渡大学だな、と木村浩は手配した。「木場院長も江渡大学に行くんだけど、一緒に連れて行ってくれる?」