白川華怜を見かけると、彼は手を少し上げた。「華怜ちゃん」
彼はスポーツウェア姿で、とてもカジュアルだった。
この数日間、彼は白川華怜をよく探していた。彼の気品のある端正な顔立ちのせいで、一中の掲示板には渡辺颯専用のスレッドまでできていた。彼が白川華怜の兄の一人だと知られると、多くの女子生徒がコメント欄で感嘆していた。さすが美人の家族は美人揃いだと。
一中の男子生徒たちは気が滅入っていた。やっと山田がいなくなったと思ったら、今度は外部から新たな強敵が現れたのだから。
白川華怜は森園雄たちに先に山田家へ行くよう伝えてから、渡辺颯を探しに行った。
彼女が近づくと、渡辺颯は彼女が手に持っているA4用紙の束に気付いた。全て丸めてあり、何なのかわからなかった。
「これは新作のバッグだよ」渡辺颯は視線を戻し、バイクの前部からベージュのバッグを取り出して白川華怜に渡した。「本を入れるのに使えるよ」
白川華怜はこの世界のブランドについてあまり知識がなかった。
渡辺颯からの贈り物はこれだけではなかった。木村浩は彼女に受け取るように言い、気に入らなければフリマサイトで売ればいいと言っていた。
「……ありがとう」彼女は少し考えてから、手を伸ばしてバッグを受け取った。
渡辺颯は向かいのタピオカミルクティー店を見て、それを思い出したように急いで言った。「華怜ちゃん、ちょっと待っててね」
彼は言うが早いか、白川華怜が止める間もなく向かいの店へ走っていった。
白川華怜はその場に立ったまま、何気なくA4用紙を開いてゆっくりと読み始めた。
「白川さん」近くから、松本章文が歩いてきて、丁寧な口調で呼びかけた。
彼は渡辺颯を探しに来ていた。この数日間、渡辺颯について回っているうちに白川華怜とも何度か会っていた。白川華怜の本質は見抜けなかったものの、松本章文は彼女に対してとても礼儀正しかった。
白川華怜は少し顔を上げた。松本章文の後ろには見たことのない若者がいた。「向かいに行きましたよ。すぐ戻ってきます」
そう言いながら、彼女はゆっくりと紙をめくった。
「ありがとう」松本章文は一言言って、何気なく白川華怜を見た。彼女のA4用紙には英語が書かれており、途中にデータグラフも入っていた。
見た瞬間、彼は驚いた。英単語のほとんどが難解なものだった。