「撮影してよ」吾郎はポケットからタバコを取り出し、一本抜き出して、二人のカメラマンに声をかけた。
監督とカメラマンは、食卓での「食べてよ、早く食べてよ」というような気軽な感じを聞き取った。
「吾郎さん」梅田行長はようやく我に返り、彼は穏やかな表情で、できるだけ丁寧にその人の膝の上のホルスターから視線を外して言った。「ここで...自由に撮影してもいいんですか?」
彼らは突然銃を抜くのではないだろうか。
「さん付けはいいよ」吾郎はそんな堅苦しさが苦手で、熱心に自己紹介した。「俺は黒水通り・ニコラス・ストリートファイター・伊藤吾郎だ」
身分は全て自分で付けたものだった。
怯えている監督は珍しく困惑した表情を浮かべた。
「この二人を撮影すればいいんだ」吾郎は伊藤満に相談済みで、タバコを咥えながら、親しげに監督の肩を叩いた。「ここの連中は細かいことは気にしない。顔を正面から撮らなければ基本的に大丈夫だ。ほら見ろ、通りの横は商店街だ。撮りたいものを撮ればいい」