ホテルには朝食バイキングがあり、昨夜藤野信勝が白川華怜に七時に22階で朝食を取ると伝えていた。
白川華怜は「早いですね」と一言返し、それからカートを見下ろした。
カートには朝食の他に紫砂茶壺があり、白川華怜は手を伸ばして隣の白い磁器の茶壺にお茶を注ぎ、どんなお茶かわかったので、給仕係に食事を並べさせた。「ありがとう」
「どういたしまして、白川さん」紀伊達夫は白川華怜に名刺を渡しながら言った。「昨夜は遅い時間のチェックインでしたので、お邪魔しませんでしたが、何かございましたらお気軽にお電話ください」
「はい」白川華怜は丁寧に受け取った。
下を見ると、紀伊達夫、総支配人と書かれていた。
部屋の中で、主任がバルコニーのテーブルに朝食を並べながら、白川華怜に非常に丁寧に言った。「白川さん、何かございましたら内線の1番を押してください」
主任は部屋を出た後、部屋番号1108をメモし、最後にサービス部に指示を出した。1108号室のお客様からの電話は最優先で対応し、自分にも報告するようにと。
「1108号室って、プレジデンシャルスイートじゃないのに」電話を受けた数人のスタッフは非常に驚いていた。
主任は彼らを厳しく一瞥しただけで、理由は説明しなかった。
プレジデンシャルスイートでさえ、総支配人が直接対応することはなかったのに。
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8時、山城ホテル1階。
上原副会長は加藤正則と話をしていた。「今回本当に特級会員がいるんですか?」
陽城書道協会は段位認定に来ていた。上原副会長は加藤正則とも親しく、次期会長候補として、上原副会長は少し情報を知っていた。
「時が来れば分かりますよ」加藤正則は落ち着いた様子だった。
二人が話している時、黒いカイエンがホテルの正面玄関に停まり、ドアマンがすぐにドアを開けた。
後部座席から、白川明知が降りた。
助手席の秘書も降りて白川明知の後ろについて行き、「田草刈部長が28日は予約済みだと言っていましたが、全ては社長とご相談してからということです」
白川明知は頷いた。
彼はホテルに入り、ホテルのオフィスで田草刈部長に会おうとしたとき、ホテルの中央で見覚えのある人物を見かけ、足を止めて数歩前に進んだ。「上原会長」
上原副会長は、北区書道協会の副会長であり、同時に北区の公務員でもあった。