入ってきたとき、白川華怜がソファーに座っているのが見えた。彼女は少し後ろに寄りかかり、とてもリラックスした姿勢だった。
「先に食事をしよう」彼は携帯を置き、テーブルの方へ歩いていった。テーブルの上には精巧な木箱が置かれており、彼は食事箱の蓋を開けた。
蓋を開けると、中からスープの湯気が立ち上り、彼の冷たい眉目を曇らせた。
渡辺颯が外から慎重に入ってきたとき、白川華怜がゆっくりと食事をしているのが見え、木村浩が彼女の隣に座って気軽に話しかけていた。
彼が入ってくるのを見て、木村浩は淡々と一瞥を送った。
渡辺颯の心が締め付けられた。
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午前二時。
302号室。
木村浩の書斎で、彼は電気を消さず、パソコンだけをつけていた。画面にはクラブの監視カメラ映像が映し出され、彼は冷ややかな目で吉田宏隆の手にあるグラスを見つめていた。
ドアの外から、軽い二回のノックが聞こえた。
彼は視線を動かさず、ただ「入れ」と言った。
入ってきたのは明石真治で、彼は冷酷な表情で木村浩に二枚のコピーを渡した。「これは雲翔分署のある警官が見つけた資料です」
木村浩はそれを受け取り、一瞥した。
一枚は渡辺千月の報告書。
もう一枚はグラスの残留物の報告書。
MS幻覚剤と書かれており、11%の依存性成分を含んでいた。書類の端を握る指の関節が白くなった。
机の上で携帯が光り、一つの電話が入ってきた。
明石真治は机の前に立ち、発信者が田中北実だということをはっきりと見た。
木村浩はその二枚の紙を机の上に置き、手を伸ばして電話を切った。
電話の向こう側の人は二度目の電話をかける勇気はなかった。
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午前六時。
一台のSUVが三つの路障を無視し、最後に田中家の門前で停まった。
「どうしてお戻りになったのですか?」田中家の警備員は手元のものを置き、恭しく迎え出て、驚いた表情を見せた。
田中北実は黒い練習着を着て、手の書類を丸め、冷たい声で言った。「全ての管理職に通知を。中堂で会議を開く。当主も含めて」
警備員は彼女の殺気立った横顔を見て、心臓が一瞬止まりそうになった。
田中北実は公の場に姿を見せることは少なかった。かつて指揮系から戦闘系に転向し、一戦で名を上げ、以来田中家の第二の座に就いた。田中家は男女を問わず、個人の能力のみを重視した。