運転席で、雲野助手は木場院長が豪華な階段を上がっていく姿を見つめていた。
視線は確かに木場院長の手にあるノートに注がれていた。
彼は助手教授として木場院長の側で長い間働いてきた。
このノートは木場院長がいつも持ち歩いているもので、USBメモリーが何なのかは分からないが、そのノートは間違いなく木場院長の今までの研究の集大成だろう。
暗号化された数字が多く使われているが、これも明らかに機密レベルのものだ。
玄関で、マネージャーは恭しくこの老人を階上へと案内した。
振り返った瞬間、階段に赤外線が当たっているのを見たような気がした。彼は一瞬足を止め、もう一度よく見てみたが、もう何も見えなかった。
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今日の紫雲クラブは静かだった。
最上階。
木場院長が到着した時、白川華怜はちょうどろうそくを吹き消したところで、宮山小町は照明をつけた。
木場院長は長居できないので中には入らず、部屋の中の人々を見渡し、木村浩と渡辺颯の姿を目にしながら、入口で白川華怜を待った。
松本章文は渡辺颯と小声で、なぜ田中局長があのブロンド髪の男にあんなに敬意を払うのかについて話し合っていた。
その話がまだ終わらないうちに、ドアが再びマネージャーによって開けられた。
「白川さん、まだ他にお客様がいらっしゃるんですか?」松本章文が尋ねながら顔を向けると、木場院長がドアの外に立っているのが見えた。彼の髪は相変わらず乱れており、手にノートを持っていた。
木場院長、国際量子力学の権威。
海外の研究所は多くの規則を破ってまで彼を招聘しようとしたが、すべて断られた。
物理学科の生き字引。
松本章文は講演や大学の物理の教科書でしか彼を見たことがなかったが、今、彼が紫雲クラブに現れた。
松本章文は目を瞬かせた。
彼の隣で、渡辺颯は石川雄也に会ったことがあったので、松本章文よりは落ち着いていたが、心の中の疑問は増すばかりだった。藤野信勝や石川校長、そして松山院長に続いて。
今度は木場院長まで現れたのか?
白川華怜も非常に意外だった。木場院長は世間のことには関心を持たない人のはずで、彼の世界は単純で、物理学だけ。他の社交などすべては彼の考慮の範囲外だった。
なぜここに来たのだろう?