木場院長は普段から忙しく、学生の指導はもう行っていないものの、ポスドクたちが研究の方向性について相談に来ることがあった。ただし、なかなか会えないことが多かった。
審査や、フォーラム、学術会議への参加もあり、チームの教員たちとも相談することが多かった。
白川華怜が江渡に来てからずっと、彼は時間が取れず、彼女の方から来てもらうことにした。
ただ、白川華怜は来てすぐに渡辺文寺と田中宏司と一緒に数学モデリングコンテストに参加し、その後は渡辺千月の件もあり、結局時間が取れなかった。
「この数日は空いています」白川華怜は箸を置いた。
「この数日?」電話の向こうで、木場院長は自分のパソコンを手に取り、「じゃあ今日にしよう。私は研究所で執務しているから、ここに来てくれれば良い。住所を送るよ」
二人は電話を切り、木場院長は白川華怜に住所を送った。
白川華怜は住所を見下ろした。量子情報研究所だった。
食事を終えて、宮山小町は空沢康利と明石真治に尋ねた。「お二人はどこに住んでいるの?」
彼女が江渡に来た時、宮山のお母さんも一緒に来るつもりだったが、安藤宗次から宮山小町が白川華怜と一緒に住むと聞いて、宮山のお父さんとお母さんは安心した。家族全員が不思議と白川華怜を信頼していた。
畑野景明は本を置いて、いつもの簡潔な調子で答えた。「上の階です」
「上の階?」宮山小町は顔を上げた。
「5階の501号室です。叔父さんが部屋をプレゼントしてくれたみたいです」空沢康利は今朝ホテルで目覚めた時に、畑野景明からこのことを聞いた。
宮山小町は驚いた。十五組の生徒は皆普通の学生で、畑野景明も以前はあまり話さなかった。
服装も島田凜と同じように制服だけで、みんな彼の家庭の経済状況はあまり良くないと思っていた。
今、叔父さんが畑野景明に部屋をプレゼント?
白川華怜でさえ賃貸なのに。
畑野景明は...プレゼント?
みんなが話している中、明石真治も思わず畑野景明を見た。
彼が301号室に住んでいるのは、その部屋が木村浩からのプレゼントだったからだ。海山マンションは高級マンションではないが、学区内の物件で、家賃は安くない。明石真治には今のところ買う余裕がなかった。
それはそれとして。
社会保険は払っているのだろうか?
明石真治は畑野景明を見つめ、疑問に思った。
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