青葉紗矢は彼女を見つめ、ずっと落ち着かなかった心が、瞬く間に静まった。
「出番はいつ?」白川華怜はテーブルの上の携帯を見て、もう5時になっていた。
「あっ」青葉紗矢は我に返り、「司会者が今上がったところよ。二人が降りてきたら、あなたの番。そうそう、音楽、音響さん準備できた?」
「ご安心ください、部長」パソコンの前に座って音楽を操作している男子学生が顔を上げ、青葉紗矢に「OK」のサインを送った。
経済学部の学生会のメンバーが興味深そうに近寄ってきて覗き込んだ。
白川華怜の音楽のタイトルは単純に「簡」という一文字だけだった。「これ、どんな曲?聞いたことないな」
「わかりません」音楽を操作している男子学生は聞いたことがあった。「でも、これは歌じゃなくて純音楽です。白川さんが送ってきたもので、彼女が探してきたんでしょう」
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外の舞台では。
タキシードとイブニングドレスを着た二人の司会者が笑顔で開会の言葉を読み上げ、新入生を歓迎していた。
最前列の両側には、記者たちがカメラを設置していた。
講堂の千席近い座席は満席で、階段や通路にも人があふれ、多くの人がスマートフォンで生配信をしていた。
空沢康利の前の男子学生も配信者の一人だった。
自撮り棒を持った男子学生は、江渡大学でメディア活動をしている一人で、普段は食事や自習の様子を配信している。今回の配信では700人が視聴しており、宣伝の効果で視聴者数も増えていた。
【入れなかったから、配信者さんの中継に頼るしかない】
【トップ生たちのパフォーマンスが見られるなんて、価値あるね】
【白井沙耶香が出るって本当?】
【……】
男子学生は配信しながら話していた。「プログラムは貼り出しましたよ。はい、白井沙耶香は最後の出番です。大丈夫、わざと明日の朝の便に変更したので、みなさんとゆっくり待ちます」
楽屋はそれほど広くなく、近藤希美と吉田実里はそこには留まらず、前に戻って演目を観覧することにした。二人とも席がなく、遅れてきた空沢康利や畑野景明、島田凜たちと一緒に立ち見をしていた。
吉田実里は多くの人が携帯で現場を配信しているのを見て、近藤希美に「大丈夫かな?」と話しかけた。
近藤希美は彼女の手の甲を軽くたたき、安心するように示した。