前回彼が話したように、彼には親族が一人しかいない。それは叔母だった。
白川華怜は「うん」と返事をして、彼の続きの言葉を待っていたが、木村浩はそれ以上何も言わず、ただ白川華怜に「ただ君に伝えておくだけで、他の人はどうでもいい」という結論を告げた。
木村坊ちゃま、木村家の唯一無二の支配者である彼は、これまで他人を気にかけたことはなく、こういった話題を出すのも話をそらすために過ぎなかった。
現在の二代目である木村錦でさえ、白川華怜本人に会ったことがないのだから。
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二人は海山マンションまで歩いて行った。
街灯は暗く、この時間は外に人も多かった。途中で何人かが白川華怜に気付いたが、彼女の隣にいる、見るだけでも勇気のいる男性の存在に気圧されて、声をかける勇気はなかった。