高橋雅は慌てて手の中の茶碗を置き、袖を払い、立ち上がってドアの外を見た。
ドアを開けたのは骨ばった手で、腕にはハウンドトゥース柄のマフラーが整然と掛けられていた。木村浩だった。
高橋雅は彼の後ろに目を向けた。赤い刺繍入りの上着を着た女性がいて、中は杏色の服で、目線を落としていた。
先週会った白川華怜は、素朴な服装で、控えめで上品だった。
今日の赤い上着は、鮮やかで人を惹きつけた。
高橋雅は少し呆然としてしまった。
「叔母さん」木村浩は個室のドアを閉め、礼儀正しく高橋雅に挨拶した。
その「叔母さん」という一言も、極めて淡白だった。
白川華怜も何の遠慮もなく、落ち着いて高橋雅に挨拶をした。
木原秘書は静かに脇に退き、さりげなく目の前の女性を見つめ、内心とても驚いていた。高橋家は美人を輩出することで知られ、高橋鈴が木村晴夫と結婚した時も、江渡では美談として語られ、高橋唯もすぐ後に渡辺翔平と結婚した。