高橋雅は慌てて手の中の茶碗を置き、袖を払い、立ち上がってドアの外を見た。
ドアを開けたのは骨ばった手で、腕にはハウンドトゥース柄のマフラーが整然と掛けられていた。木村浩だった。
高橋雅は彼の後ろに目を向けた。赤い刺繍入りの上着を着た女性がいて、中は杏色の服で、目線を落としていた。
先週会った白川華怜は、素朴な服装で、控えめで上品だった。
今日の赤い上着は、鮮やかで人を惹きつけた。
高橋雅は少し呆然としてしまった。
「叔母さん」木村浩は個室のドアを閉め、礼儀正しく高橋雅に挨拶した。
その「叔母さん」という一言も、極めて淡白だった。
白川華怜も何の遠慮もなく、落ち着いて高橋雅に挨拶をした。
木原秘書は静かに脇に退き、さりげなく目の前の女性を見つめ、内心とても驚いていた。高橋家は美人を輩出することで知られ、高橋鈴が木村晴夫と結婚した時も、江渡では美談として語られ、高橋唯もすぐ後に渡辺翔平と結婚した。
今の江渡には明石家のお嬢様たちもいて、木原秘書も会ったことがあり、確かに美しく育っていた。
しかし今日この白川さんに会って、木原秘書は明石玉姫でさえ一歩譲らなければならないと感じた。この雰囲気だけでも、明石家の人々には真似できないものだった。
他人は、たとえ田中当主が木村浩の隣に座っていても、その影響を受けざるを得ない。
しかしこの白川さんは相変わらず落ち着いていて、優雅な姿を保っていた。
木村浩は急須を取り、自分と白川華怜のために茶を注いだ。外では支配人が料理を運び始めていた。
「江渡大学は勉強の負担が大きいでしょう?この前ニュースで探査機が火星に着陸したって見ましたけど……」高橋雅は白川華怜の隣に座り、彼女と話をしていた。高橋唯から白川華怜は成績が良いと聞いていて、もしかしたら将来木村浩のように研究室で過ごすかもしれないと。
高橋雅は芸術を学んでいたが、ここ数年は高橋家と木村浩のおかげで、少しは理解するようになっていた。
昨晩も特別に高橋家の人々から科学研究界の資料をもらい、一通り復習したが、専門家の耳には多少のずれがあるように聞こえただろう。
白川華怜はさりげなく話題を変えた。
科学研究から始まり、最後は芸術の話になった。
芸術の話になると高橋雅は話が尽きず、自分の絵画の恩師が木村翼をとても評価していると語った。