「それに、あなたの作曲を藤野院長に推薦させていただきます」と井上英明は微笑んで言った。「彼が直接あなたの曲の編曲をしてくれるでしょう」
藤野院長は以前からお箏の伝承者として江渡音楽大学で名を馳せていた。
この半年間、白鳥春姫の編曲の巨匠として、芸術界で他の人々を大きく引き離していた。
長良寛治自身も編曲ができないわけではなかったが、藤野院長の編曲レベルが彼より高いことは言うまでもなく、作品に「藤野院長」という名前が付くだけでも、その価値は違ってくるだろう。
彼は名刺を持って帰宅し、この件について考え始めた。
劇場の老院長がテーマ曲を募集していることは知っていたし、『木の花』の台本も人を通じて手に入れていた。
井上英明の家は代々演劇に携わっており、彼の祖母は京劇の伝承者で、芸術界では重要な存在だった。
高橋雅にはそこまでの深い背景はないが...彼女は高橋家の人間だ。
長良寛治は二人のことで迷っていた。この曲は必ず作るつもりだし、勝算もあるが、どちらの側に立つかで、必然的に一方を敵に回すことになる。
この年齢になれば誰もが上を目指したいものだ。彼も同じで、功利的な考えが強かった。
井上英明は彼の息子のことを調べただけでなく、藤野院長のことも約束してくれた。これらすべてが自分の実力を示すものだった。長良寛治は名刺を机の上に置き、心の中ですでに決断を下していた。
**
海山マンション。
白川華怜が戻ってきたとき、山田と空沢康利、畑野景明の三人が303号室で宿題をしており、宮山小町と木村翼は絨毯の上でパズルで遊んでいた。
彼女の手には新鮮なバラが一輪あり、深紅の花びらには透明な水滴がまだ光っていた。
「来週の土曜日よ」白川華怜は書斎に入った。机の上にはいくつかの小物が置かれ、黒いパソコンの横には青磁の花瓶が新しく加わっていた。
明石真治が数日前に持ち帰ったものだ。
花瓶には数輪のバラが無造作に挿してあり、それぞれ異なる時期に挿されたもので、満開のものもあれば、萎れかけているものもあった。白川華怜はゆっくりと手のバラを青磁の花瓶に挿した。
木村浩は机にだらしなく寄りかかり、青磁の花瓶のバラを見下ろしながら、無関心そうに言った。「望月家でか?」