あの時の最後の戦い。
田中登が大勢の人々を陽城市から撤退させ、百余名の将兵しか残っていない陽城市は既に空城となっていた。
白川華怜はこれらの兵士たちを城門で警備させ、毎日太鼓を鳴らし、必要な手順を一つも欠かさず、さらに糧食が到着したかのような幻影を作り出し、虚実入り混じった状態を保っていた。
敵軍はしばらくの間、軽々しく動くことができなかった。
剣が額に突きつけられているような状況は、実際に経験した者だけが理解できるものだった。
「少し時間が必要です」藤野院長は以前、白川華怜に大きな野望を語っていたが、いざ自分の番が来ると、作曲が失敗するのではないかと不安になった。
電話を切る。
藤野院長は横を向いて録音技師に尋ねた。「今のは録れた?」
若い女性は藤野院長のこんなに几帳面な様子を見たことがなく、「は、はい、録れています」