言葉を口にした瞬間、山田流真は後悔した。
温井卿介は、このことを誰にも話してはいけないと言っていたのだ。
もし温井卿介の本当の身分を他人に話してしまったら...そう考えると、山田流真は背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
「彼女の後ろには誰かいるの?」島田書雅が尋ねた。
山田流真は心虚ろに言った。「僕も推測でしかないけど...さっきの小宮若様の仁藤心春への態度を見ただろう?彼女の後ろに誰もいないなんてことがあり得るかい?」
「でも...」島田書雅はまだ何か違和感を感じていた。
「とにかく、これからは仁藤心春に会ったら、丁寧に接するように。彼女を怒らせないようにね」山田流真は注意を促した。
島田書雅は目を伏せ、心の中の不満を押し殺して「分かったわ。そういえば、さっき仁藤心春が言及した研究ノートって何?」
「彼女が会社に残していった一冊のノートだよ。まだ公表されていない研究方法が書かれているんだけど、それは彼女個人のものであって、会社のものじゃない」山田流真は説明した。
島田書雅の心が動いた。
山田流真は島田書雅の腫れた頬に手を当てた。「GGKとの提携は、もう一度交渉してみるよ。仁藤心春がいなくたって、うまくいかないはずがないさ!」
島田書雅は赤い唇を開いて言った。「そうね、この世に仁藤心春でなければできないことなんて、何もないわ」
私、島田書雅は仁藤心春以上にできるはず!
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仁藤心春がアパートに戻ると、意外にも温井卿介がいた。
彼はソファに座り、何気なくアルバムをめくっていた。
午後の陽光が窓から差し込み、彼の体に降り注いでいて、優雅で美しい絵画のような光景だった。
「お帰り」彼女が入ってきた気配を感じて、温井卿介は顔を上げた。
「うん」仁藤心春は頷いた。「アルバムを見てるの?」
「君の部屋に入った時に偶然見つけたんだ。見て悪かったかな」彼は言った。
「見ていいわ」彼女は前に進み出た。
このアルバムは古いもので、家族の写真が収められていた。
母と継父、悠仁、温井おじさんと卿介、そして...
「このアルバムの他の人たちは誰なのか分かるけど、この二人は...」温井卿介は質問しながら、アルバムのある写真を指さした。
仁藤心春もその写真に目を向けた。