第105章 腹黒い温井朝岚

「あの、朝岚さんにお会いしたいのですが」と山本綾音は受付に向かって言った。

彼女は以前朝岚に電話をかけており、ここに来るように言われたので、このように言えば問題ないはずだった。

受付の職員はそれを聞いて、すぐに「山本綾音さんですか?」と尋ねた。

「はい」と綾音は答えた。

「こちらへどうぞ。温井理事長がお待ちです」

受付の職員の一人が綾音をエレベーターまで案内し、二人で一緒に乗り込んだ。

エレベーターの中で、綾音は相手が自分を密かに観察しているのを感じ取った。明らかに彼女に対して好奇心を抱いているようだったが、綾音は微笑むだけで、気付かないふりをした。

エレベーターが目的の階に到着し、職員が綾音を連れて出ると、背の高い美しい女性が近づいてきた。

「藤原秘書!」と受付の職員は言った。「こちらが山本さんです。温井理事長から、来られたら直接お通しするようにと言われています」

「私が理事長室までご案内します」と藤原芸夢は言った。

受付の職員が去り、藤原芸夢は綾音を見つめながら「こちらへどうぞ」と言った。

「はい」綾音は藤原芸夢の後に続き、理事長室へと向かった。

このような高級オフィスビル、しかも理事長室のある階に足を踏み入れることなど、綾音はこれまで想像したこともなかった。

この内装を見れば、最高級の材料を使用していることは一目瞭然だった!

ここにいると、また彼女と温井朝岚との間にある距離を感じずにはいられなかった。

とあるオフィスの入り口に着くと、藤原芸夢はドアを二回ノックしてから開け、「理事長、山本さんがお見えになりました」と告げた。

「入りなさい」と温井朝岚の澄んだ声が聞こえた。

綾音は藤原芸夢について部屋に入ると、温井朝岚が椅子から立ち上がり、デスクを回って彼女の方へ一歩一歩近づいてくるのが見えた。

彼は足を引きずりながら歩いていたが、それでもなお優雅な印象を与えていた。

「来てくれたんだね」温井朝岚は綾音の前に立ち、優しく彼女を見つめながら「何か飲み物はどう?」と尋ねた。

「結構です、今日は物をお渡しするだけですから!」綾音は急いで言い、さっさと用事を済ませようとした。

しかし温井朝岚は明らかに綾音の思い通りにはさせないつもりで、藤原芸夢に「ブルーベリージュースを持ってきてください」と指示した。