この車も、今となっては何の意味もないわ!
週末、山本綾音は仁藤心春と一緒に中古車販売店に来ていた。
「本当にこの車を売るの?」山本綾音が尋ねた。
「そうよ、置いておいても価値が下がるだけだもの」仁藤心春は淡々と笑いながら答えた。
山本綾音は知っていた。この車は以前、心春が温井卿介に買い与えたものだった。
当時、親友が50万元も使って相手に車を買ってあげたと知った時は驚いた。結局、心春自身が乗っているのは20万元程度の車だったのだから。
でも、その時の心春は笑いながら「卿介が気に入ってくれればいいの」と言っただけだった。
まるで卿介が好きなものなら、何でも与えようとしているかのように!
でも誰が想像できただろう、卿介が温井卿介だったなんて。
「彼と別れて、本当に...未練はないの?」山本綾音は思わず聞いてしまった。
仁藤心春は目の前にある、かつて卿介に買い与えた車を見つめながら、「彼は私に対して本気じゃなかったわ。未練なんて持つ必要ないでしょう。ただの夢だったと思えばいい。目が覚めただけよ。私と彼が再会してから今まで、たった一ヶ月ちょっとだもの。私は割り切れるし、手放すこともできる」
山本綾音はほっと息をついた。「それならよかった」
仁藤心春は中古車販売店で登録手続きを済ませ、山本綾音と一緒に店を出た。しかし、彼女たちは気付かなかった。少し離れた場所に一台の車が止まっており、その中で温井卿介が窓越しに仁藤心春の姿を見つめていたことを。
前席に座っていた渡辺海辰は今、息をするのも恐ろしい状態だった。あの日、二若様と仁藤さんが決裂して以来、二若様は仁藤さんに関する報告を一切するなと言っていた。
しかし先ほど、車でここを通りかかった時、二若様が偶然に仁藤さんが中古車販売店に入るのを見かけた後、ここで車を止めるように命じ、その後は一言も発せず、何を考えているのかわからない状態だった。
そして今、仁藤さんと彼女の友人が出てきたが、彼女たちは歩いて出てきており、車で出てきたわけではなかった。
つまり、その車は中古車販売店に置いていかれたということだ。
そう考えると、渡辺海辰は思わずバックミラーを通して温井卿介の様子を窺った。
「彼女たちが車販売店で何をしたのか調べてこい」温井卿介の声が突然響いた。