第115章 彼の恐れ

その笑顔に、山本綾音の心臓は思わず早鐘を打ち始めた。

なんてこと!もし彼がもっと不細工だったら、こんなにドキドキしなかったのに!

「あの...私のスタジオについて、何を知りたいの?」綾音は話題を振った。仕事の話をすれば、こんな恋する乙女みたいなドキドキも収まるはず!

「君にポートレートを撮ってもらうことになったから、これまでの作品を見せてほしい」と温井朝岚が言った。

「もちろん大丈夫です」綾音は急いで返事をし、これまでの作品集を取り出して、朝岚の前に並べた。

朝岚はそれらのアルバムをめくっていった。風景写真もあれば、人物写真もあった。

ただ、意外だったのは、彼女が撮影した人物写真には、モデルやタレントの他に、多くの一般の人々も写っていたことだ。

路上の行商人、手を繋いで歩く母と娘、路地裏で編み物をする老婆...これらの写真には、生活の息吹が満ちていた。

「以前、綺麗な人を撮るのが好きだと言っていたのに、なぜこういう写真も?」と朝岚は尋ねた。

綾音は微笑んで答えた。「カメラマンが綺麗な人や物だけを撮るなんてありえないでしょう?むしろ普通の人々の方が多いんです。タレントやモデルを撮るのは確かに目の保養になりますけど、普通の人々を撮る時は、彼らが一生懸命生きている姿に感動するんです」

朝岚はアルバムをめくり続けた。

ある一冊を開いた時、突然彼の表情が変わった。

「これは...」

「ああ、これは山間部で地震があった時に、私が救援隊に参加して現場で撮影したものです」と綾音は説明した。「当時、あの地域で地震が起き、多くの人が負傷したり埋まったりしていました。知り合いが救援隊を組織していたので、私も参加して、現場のドキュメンタリー撮影を担当しながら、救助活動や物資配布にも携わりました。余震もあって犠牲者も出ましたが、幸い私たちがいた場所は余震の強度が小さかったんです」

当時の悲惨な状況を思い出すと、今でも胸が痛んだ。

でも、救援隊に参加したことは後悔していない。

人を助け、救援隊の仲間たちと力を合わせて人命救助をすることで、生きる意味をより深く実感できたから!

綾音が話している途中、朝岚の顔色が恐ろしいほど青ざめていることに気付いた。

「どうしたの?顔色が悪いけど、体調でも悪いの?」と綾音は尋ねた。