その中で短気な人がいて、仁藤心春を殴ろうとした。
仁藤心春は冷たい声で言った。「田中佩子おばさまの手がどうなったか忘れたの?本当に私を殴るつもり?」
この言葉を聞いて、相手は即座に顔色を変え、恥ずかしそうに手を引っ込めた。そして田中悠仁を恨めしそうに睨みつけて、「このバカ息子、人の好意が分からないんだな。この厄病神に騙されるのを待ってろ!」
言い終わると、相手は怒って病室を出て行った。
田中家の他の親戚たちもそれを見て、次々と部屋を去っていった。
最後に出て行く橋本春菜は、仁藤心春をちらりと見てから病室を出た。
病室には仁藤心春と田中悠仁の二人だけが残された。
「大丈夫?傷は痛む?」仁藤心春は心配そうに尋ねた。
「あまり痛くない」田中悠仁は答え、視線を仁藤心春の包帯で巻かれた右手に向けた。昨日、まさにこの手が躊躇なく伸びて、彼の顔に向かって突き刺さろうとしていたナイフを掴んだことを覚えていた。