「手伝いは結構です。でも、せっかく海辺に来たのですから、一緒に食事でもしませんか」と温井朝岚の声が響いた。
山本綾音はその言葉を聞いて、なぜか安堵のため息をついた。
今さら温井卿介に仕事を手伝ってもらうのは、うーん...心理的な負担が大きすぎるからだ。
しかし、「あれは本当に...」と山本綾音は温井朝岚を見つめた。
「今日は半分撮影したから、残りは次回にしましょう」と温井朝岚は言った。
仁藤心春は温井朝岚の言葉を聞いて、もう何も言えなかった。結局、彼女が手伝いを申し出たのは、綾音のことを心配していただけだったから。
一緒に食事をして、食事が終わったら綾音を連れて帰ればいい。
温井卿介は温井朝岚を見て、口元を緩めて「兄さんがそう言うなら、従わせていただきます」と言った。
四人は温井朝岚の別荘に戻った。
山本綾音が撮影機材を整理している間、温井朝岚は先に浴室で身体を洗った。
仁藤心春はその機会を見計らって山本綾音の側に寄り、「今日は本当にグラビア撮影に来たの?」と尋ねた。
「そうじゃないっていうの?」と山本綾音は反問した。これが嘘のはずがない。「それにさっきはどうしたの?なんで温井卿介に手伝わせようとしたの?」
「あなたが衝動的に...」と仁藤心春は言いかけて止まった。
山本綾音は一瞬固まった後、やっと理解して怒り出した。「私が温井朝岚と夜遅くまで一緒にいて、彼のルックスに惹かれて何か変なことをするんじゃないかって心配したの?私をそんなイケメンを見たら飛びつくような女だと思ってるの?」
「もちろんそんなことないわ!」と仁藤心春は言った。「でも、もし温井朝岚があなたを誘惑したら?」
山本綾音の怒りは収まったものの、後半の言葉を聞いて呆れた気持ちになった。
「彼がどうして私を誘惑するの?」だって温井家の長男なんだよ!
「どうしてしないの!」と仁藤心春は言った。「温井朝岚はあなたに対して特別な態度をとってるわ。好意を持ってるんじゃないかしら」
綾音の前での朝岚は、噂とは全く違う様子を見せていた。