「だめですか?実は描かなくても構わないんですが、もしよろしければ、あなたの思うようにメイクを決めていただいて、必要な化粧道具は全て用意してありますから」
温井朝岚はそう言いながら、山本綾音を案内して用意された化粧道具を見せた。
山本綾音は目を見開いて、これらの化粧道具を見つめた。全て新品で、しかも最高級のラグジュアリーブランドばかり。普段、人にメイクをする時には、こんな高価なものは使えなかった。
本当にこれらを使って、彼のメイクをしていいの?
そう考えると、突然わくわくしてきた。
そもそも温井朝岚の容姿や身長は、彼女の好みにぴったりで、撮影の内容や衣装も全て彼女が選んだもの。もしメイクまで彼女が手がけることができれば。
このフォトセッションは、まさに「完全に」彼女の作品になる!
彼女一人の作品に!
「もし私のメイクが下手だったとしても、責めないでくださいね」と、彼女は予め釘を刺した。
「わかりました」温井朝岚はあっさりと答えた。
山本綾音はようやく安心し、温井朝岚を化粧台の前に座らせ、メイクを始めた。
ベースメイク、シェーディング、そしてアイメイクに取り掛かる時、「目を閉じてください」と言った。
温井朝岚は素直に目を閉じた。山本綾音は扇のように長いまつげを見つめ、温井家の男性は、少なくとも容姿に関しては本当に抜きん出ていると感心せずにはいられなかった。
温井卿介もそうだし、温井朝岚もそう。
ただし、温井卿介の艶やかで冷たい美しさとは異なり、温井朝岚の美しさは、より優雅で優しい。時々、他人に対する彼の冷淡さや距離感を感じることはあっても、彼の優しさは人を簡単に魅了してしまうものだった。
山本綾音は慎重に温井朝岚のアイメイクを施していった。
彼の容姿は既に完璧だったので、メイクは薄めで、より自然な感じに仕上げることにした。アイメイクも爽やかな感じを選び、わずかな修正程度に留めた。
「はい、目を開けてください」と彼女が言うと、黒く長いまつげが軽く震え、ゆっくりと目が開かれた。
漆黒の瞳に、すぐさま彼女の顔が映り込んだ。
アイメイクの関係で、今は彼女が身を乗り出す姿勢で、温井朝岚の顔に近づいていた。