山本綾音は仕方なく温井朝岚をアパートに入れることにした。結局、これは彼のアパートだし、彼を追い払う良い理由も見つからなかった。
最初は、近くのソファに座っている彼を気にしていたが、やがて仕事に集中するようになり、温井朝岚の存在を忘れてしまった。そして、彼女の携帯が鳴るまでそのままだった。
「綾音お姉さん、急にスタジオを休むなんて、怪我でもしたんですか?」電話の向こうは、スタジオのスタッフの伊藤珠希だった。活発な性格の女の子で、普段から綾音とも仲が良く、ただゴシップ好きなところがあった。
もちろん、山本綾音も普段からゴシップ好きで、その点では二人は気が合っていた。
ただ、自分のことがゴシップになるのは誰も好まないものだ。
「どうしてそう思うの?」山本綾音は質問で返した。