「今日は……本当にごめんなさい」温井朝岚は小声で言った。
「い、いいえ、大丈夫です!」山本綾音は戸惑いながら答えた。
その後、二人の間に沈黙が流れた。
傍にいた仁藤心春は、友人のために雰囲気を和らげようと前に出ようとしたが、一歩も踏み出す前に温井卿介に腕を掴まれた。
「兄さん、私たちは先に行きます。山本さんのことは兄さんにお任せします」温井卿介はそう言って、仁藤心春の腕を引いて警察署の外へ向かった。
「でも私は……あぁ……卿介!」
すぐに、二人の姿は警察署から消えた。
車に乗るまで、仁藤心春はようやく気づいたように言った。「あなた、わざと兄さんと綾音を二人きりにしたの?」
「急に兄さんが可哀想に思えてきたんだ」温井卿介は無関心そうに言った。
可哀想?普段なら誰も温井家の長男にそんな言葉を使おうとは思わないだろう。