「お母さん!」温井澄蓮は急いで前に進み、母親を支えた。「大丈夫...ですか?」
しかし、その言葉を口にした後、温井澄蓮は自分の質問が余計だったことに気づいた。母親のこの様子では、どう見ても大丈夫なはずがない!
「お兄さんは本当に取り憑かれてしまったのよ!」神谷妍音は憤りを込めて言った。
温井澄蓮はとりあえず母親を落ち着かせ、近くのソファーに座らせた。「お母さんだって分かっているでしょう。お兄さんが山本綾音さんの肖像画をどれだけ描いたか。もう綾音さんに手を出すのはやめてください。本当にお兄さんと敵対関係になりたいんですか?」
神谷妍音は黙り込んだ。
息子にはまだ用があった。本当に朝岚と対立することになれば、自分にとって良いことは何もない!
「お母さん、私の言うことを聞いてください。この件には関わらないで!」温井澄蓮は続けた。
「分かったわよ!」神谷妍音はようやく不機嫌そうに答えた。
温井澄蓮は母親が落ち着いたのを見て取り、「じゃあ、先に二階に行ってお兄さんを見てきます。さっきお母さんに叩かれて、顔が少し腫れているみたいでしたから」と言った。
先ほど咄嗟に息子を叩いてしまったことを思い出し、神谷妍音は少し不安になった。そこで急いで娘に「じゃあ、早く行って、お兄さんの様子を見てきなさい!」と言った。
後で娘から息子の様子を聞き出せばいい。
温井澄蓮は階段を上がり、温井朝岚の部屋の前まで来た。しかしドアをノックしても返事がなかったので、温井澄蓮は寝室のドアを開けた。
しかし寝室には誰もいなかった!
お兄さんは寝室に戻っていないのかしら?温井澄蓮は一瞬戸惑った後、何かに気づいたかのように、急いで廊下の反対側へ向かった。
もしお兄さんが寝室に戻っていないとすれば、最も行きそうな場所は恐らく...
温井澄蓮は別の部屋の前に来て、ドアを開けた。案の定、部屋の中に温井朝岚の姿があった。
彼は壁際に静かに立ち、壁に掛けられた肖像画を見つめていた。
それは山本綾音の肖像画で、お兄さんが直接描いたものだった。
この数年間、お兄さんは数え切れないほどの綾音の肖像画を描いてきた。そのため、この部屋の四方の壁には、大小様々な額縁が掛けられており、それらの額縁の中には全て綾音の肖像画が収められていた。
「お兄さん...」温井澄蓮は思わず声を掛けた。