山本お母さんは山本綾音のすぐ近くに立っており、先ほどの出来事を目撃していたことは明らかだった。
「お母さん」綾音は前に進み出て、「どうして...下りてきたの?」
「あなたがなかなか来ないから、見に来たのよ」山本お母さんは言いながら、警備員と口論している森山乃月の方をちらりと見た。「あの子も両親に何かあって、八つ当たりする場所がないのね...」
「分かってます」綾音は言った。「彼女とは争いませんが、好き勝手に侮辱されるのも許しません」
山本お母さんは娘を誇らしげに見つめた。「さっきの対応は素晴らしかったわ、綾音。本当に大人になったのね」
「お母さん、私もう28歳よ。まだ子供だと思ってるの?」綾音は言った。「先に上がりましょう」
山本お母さんは頷いた。
二人はエレベーターに乗り、山本お父さんの病室へ向かった。
山本お父さんは眠っており、体には依然として分厚い包帯が巻かれていた。
綾音は母親の夕食を取り出しながら、「お父さんの具合はどう?」と尋ねた。
「この二日間と同じような感じよ。でも何とか数言葉話せるようになって。医師は、この怪我は長期の治療が必要で、すぐには良くならないって言ってたわ」と山本お母さんは答えた。
綾音は胸が痛んだ。父の体の傷は、おそらく一生付き合っていかなければならない。父はまだ60歳にもなっていないのに、これからの十数年、二十数年をどう過ごしていけばいいのだろう?
「お母さん、先にご飯食べて。今はしっかり体を大事にしないと。お父さんの具合が良くなった時に、お母さんが倒れちゃったらどうするの」と綾音は言った。
「そうね、私も体を大事にしないと」山本お母さんは言って、食事を始めた。「そうだわ、綾音。お母さん、一つ聞きたいことがあるの。正直に答えてね」
「はい」綾音は応じた。
「さっき下で言っていた言葉は、本心だったの?」山本お母さんは顔を上げて尋ねた。
「え?」綾音は一瞬固まり、体が少し緊張した。「お母さん...どの言葉のこと?」
「温井朝岚のことを愛しているって言ったことよ」と山本お母さんは言った。
綾音の顔が一気に赤くなった。「お母さん、私...私あれは...咄嗟のことで...」