第257章 匂い袋の騒動

トイレで、坂下倩乃は不安げな表情で、無意識に自分の爪を噛んでいた。島田書雅に注意されるまで、我に返らなかった。

「倩乃、顔色が悪いけど、どうしたの?」島田書雅が尋ねた。

「な...なんでもないわ」坂下倩乃は慌てて答えた。「そうそう、前にお願いした匂い袋の香りの成分分析、どうなった?同じ香りを作れそう?」

これは秋山瑛真に頼まれたことで、新しい匂い袋を作って欲しいと言われたのだが、彼女は香りの調合なんて全く分からないので、島田書雅に助けを求めるしかなかった。

島田書雅はその匂い袋を持って、山田流真の会社の研究員に中の香りの分析を依頼した。

「主な成分はほぼ分析できたわ。でも、まだ一つ確信が持てないものがあるの。だって、この中の香料材料も長年経っているから、配合を完全に解明するにはもう少し時間が必要なの」島田書雅は話しながら、以前坂下倩乃から預かった匂い袋を自分の小さなバッグから取り出した。「中の香料を取り出したら匂い袋を返して欲しいって言ってたでしょう。はい」