第269章 匂い袋の調合法

坂下倩乃が戦々恐々としているところで、秋山瑛真は再び口を開いた。「では、出て行きなさい」

坂下倩乃は大赦を得たかのように社長室を退出し、やっとのことで長い息を吐いた。先ほどの秋山瑛真の眼差しは、まるで人を食い殺すかのように恐ろしかった。

一方、秋山瑛真は坂下倩乃が去った後、椅子の背もたれに重々しく体を預け、今朝の古川山からの報告が頭をよぎった——

「会長、調査結果が出ました。あの匂い袋は、仁藤部長の仁藤心春が木村教授に贈ったものです。仁藤心春は当時、自分で木村教授のために作ったと言っており、匂い袋の香料の調合は、仁藤心春が在学中に木村教授の指導の下で作り出したものだそうです」

匂い袋の調合……彼が馴染みのあるあの香り、それは仁藤心春が大学時代に自ら研究して作り出したものだった。

仁藤心春は大学時代から薫香に興味を持ち、学習と研究を始めた。これは彼が随分前に調査していた事実だったが、今回初めて匂い袋と結びついた。

もし当時、坂下倩乃が仁藤心春の香料調合を見て、その配合通りに作ったのだとすれば、それは筋が通る。

しかし……なぜか心の中で落ち着かない感じがする。まるで直接彼女に会って、いくつかの事を確かめたいかのように。

古川山が執務室に入った時、自分のボスが疲れた表情でソファチェアに寄りかかっているのを見た。

「会長、こちらがご確認いただく書類です」古川山は手持ちの書類を秋山瑛真の前に置いた。

秋山瑛真は書類を見ながら、淡々と尋ねた。「仁藤心春は?どこにいる?」

「仁藤部長は顧客との面会に行ったはずです。一時間前に、営業部の人々と外出するのを見かけました」と古川山は答えた。

秋山瑛真は沈思した。この数日間、彼は意図的に仁藤心春に会うのを避けていた。

以前レストランでの一幕が、この数日間ずっと彼の脳裏で繰り返し再生されていた。

彼女が冷静に「そうですね……人は本当に変わるものですね」と言った時、彼の心臓は何かに強く打たれたかのようだった。

思い返すたびに、心臓が痛むのを感じる。

「分かった」秋山瑛真は手元の書類に目を向けた。

古川山は社長室を出ようと身を翻したが、ドアノブに手をかけた瞬間、背後から突然秋山瑛真の声が響いた。「待て、すぐに仁藤心春がどこで顧客と会っているか確認してくれ!」