仁藤心春が見ると、山本綾音が彼女の手を掴んでいた。
「前の方に仮設ランウェイがあるみたい。モデルがショーをしているわ。もしかしたら悠仁くんがいるかもしれないわ!」と山本綾音は言った。
ここはショッピングモールの入り口で、入り口に衣服のポスターが一時的に掲げられ、近くには仮設ランウェイがあることから、このアパレルブランドがイベントを開催している可能性が高かった!
山本綾音は仁藤心春と共にランウェイの方へ向かい、温井朝岚と温井卿介は目を合わせた後、二人の女性の後を追って行った。
ランウェイに着くと、確かにモデルたちがショーを行っていた。
しかし仁藤心春が見渡しても、田中悠仁の姿は見当たらなかった。
山本綾音も田中悠仁を見つけられず、「そういえば、弟くんは今日ここでイベントがあるって言ってなかった?」と尋ねた。
「彼が私に言うと思う?」と仁藤心春は答えた。
山本綾音もそうだと思った。この姉弟の関係については、多少は理解していたからだ。
「弟くんがいないなら、先に行きましょうか」と山本綾音が言いかけたその時、ランウェイを囲む女性たちから歓声が上がった。
ステージ上に一つの影が幕の後ろから現れた。
ポスターと同じ衣装を身につけ、何気ない歩き方なのに、目が離せない存在感。
それは...田中悠仁だった!
山本綾音はランウェイ上でショーを行う少年を驚きの目で見つめた。彼女は多くのポスターを撮影してきて、その中には知名度のあるモデルも少なくなかったが、今の田中悠仁を見ていると、この16歳の少年は、すでに名の知れたモデルたちよりも一層輝いて見えた!
まるでこの仕事に生まれついているかのようだった!
一方、仁藤心春は、ステージ上の弟を見つめ、目に涙を浮かべていた。
最初は悠仁がモデルになりたいと言った時、軽い気持ちだと思っていたが、彼は彼女の想像以上に素晴らしかった!
たとえ彼がトップモデルになるのを見られなくても、今この瞬間を見られただけでも価値があった。
彼女は思った。自分がいなくなっても、悠仁に残す家と、彼がこの業界で続けていけば、きっと良い暮らしができるだろうと。
そうすれば、彼女の心残りも少なくなるはずだ!