坂下倩乃は喜びに満ちた表情で秋山瑛真の傍を歩きながら、「瑛真、今日この店に付き合ってくれてありがとう。前からここに来たかったんだけど、一人で来るのは少し変な感じがして」と言った。
「ただの食事だよ」と瑛真は淡々と言い、誰かに見られているような気がして、仁藤心春の方向に目を向けた。
そして心春を見た瑛真は、少し眉をひそめた。
坂下倩乃もその時心春を見かけ、心の中で縁起でもないと思いながら、瑛真に向かって「あら、心春もここにいるのね。挨拶に行く?」と言った。
そう言いながらも、彼女は「そうそう、あなたに頼まれた匂い袋、もう出来上がったわ」と付け加えた。
そう言って、彼女はポケットから匂い袋を取り出し、瑛真に手渡した。「前の匂い袋は心春に捨てられちゃったけど、今度のはきっと気に入ってくれると思うわ」
彼女は意図的に以前の匂い袋のことを持ち出し、案の定、瑛真の表情が変わるのを見た。
瑛真は匂い袋を受け取り、手の中で軽く握った。
「心春たち、ずっと私たちを見ているみたいだけど。本当に挨拶に行かなくていいの?」と坂下倩乃は再び言った。
瑛真の瞳が暗くなり、「必要ない」と言って、反対側に歩き出した。
坂下倩乃は内心喜んだ。やはりあの匂い袋のことを持ち出せば、心春の瑛真の心の中での印象は悪くなるのだ。
彼女のあの機転の利いた行動は、本当に一石二鳥だったわ!
瑛真が心春のことを気にしなくなればなるほど、対決協定が終わった後、心春はGGKから出て行くことになり、それどころか今後瑛真とも接触することはなくなるだろう。そうなれば、彼女も安心できる。
そう考えると、坂下倩乃は軽蔑的な目で心春を見やり、瑛真について反対側へ歩いて行った。
近くにいた山本綾音は憤慨して「見た?倩乃のあの得意げな様子。何が得意なのかさっぱり分からないわ。心春、本当に彼女の正体を暴かなくていいの?」と言った。
心春は何も言わず、先ほど友人からもらった瑛真に関する資料をバッグにしまった。この資料は、これ以上多くの人に見られたくなかった。
「心春、何か言ってよ!」と綾音は言った。
心春は軽く笑って「あんな人と争っても仕方ないわ。もし彼女が瑛真を一生騙し通せるなら、それは彼女の実力ってことよ」と言った。