仁藤心春は隣の個室を見つめながら、心の中の不安が徐々に募っていった。
温井おじいさまが何をしようとしているのかはわからなかったが、その目的は彼女を卿介から引き離すことだということは理解していた。
まるで、この一歩を踏み出して個室に入ってしまえば、多くのことが変わってしまうかのようだった。
「あなたの友達が誘拐された真相を知りたくないのかね?」と温井おじいさまが突然言った。
「何とおっしゃったんですか?」仁藤心春は驚いて老人の方を振り向いた。
温井おじいさまは目を閉じたまま養生しており、答える気配は全くなかった。
そのとき、ボディーガードの携帯が鳴った。
ボディーガードは少し通話した後、「おじいさま、次男様が病院の下に到着しました」と告げた。
「よろしい」温井おじいさまは目を開け、横目で仁藤心春を見た。「真相を知りたいかどうかは、お前が決めることだ」