「綾音!」
山本綾音の耳に最後に聞こえたのは、仁藤心春の緊張と恐怖に満ちた鋭い叫び声だった。
そして、彼女は完全な暗闇の中に落ちていった!
真っ暗...夜よりも暗く、周りは果てしない闇に包まれていた。
どれだけ歩いても、ずっと暗闇の中にいた。
この暗闇は、人を絶望させ、まるで永遠に抜け出せないかのようだった!
突然、暗闇の中で優しい声が響いた。「怖がらないで...怖がらないで...」
その声は、ただ「怖がらないで」と繰り返すだけなのに、彼女は涙が出そうになった。
この暗闇の中で彼女に寄り添っているのは、誰の声だろう?とても懐かしい...それは...
「朝岚!」山本綾音は急に叫び、目を見開いた。
目に入ってきたのは、見慣れない白い天井だった。
ここは...
「目が覚めたの?さっきは悪い夢でも見てたの?」仁藤心春の声が聞こえた。
山本綾音は声のする方を見ると、親友がベッドの傍らで心配そうに彼女を見つめていた。
「ええ、悪い夢を見たの」山本綾音は言い、周りの環境を見回すと、病室のように見えた。「ここは...病室?私がなぜここに?」
「あなたが気を失ったから、病室に運ばれたの。気を失っている間に、医師が診察してくれたわ。軟部組織挫傷はあるけど、骨折はなくて、ほとんどが表面的な傷だから大丈夫よ」と仁藤心春は言った。
しかし山本綾音はそれを聞いて、苦い表情を浮かべた。彼女の軽傷は、温井朝岚の重傷と引き換えに得られたものだった。
「朝岚は?彼は目を覚ましたの?」山本綾音は尋ねた。
「まだよ、ICUにいるわ」と仁藤心春は答えた。
「私...会いに行きたい」山本綾音は掛けていた布団をめくり、ベッドから降りて、急いで病室を出ようとした。
仁藤心春は慌てて止めた。「あなた、今目覚めたばかりでしょう。せめて何か食べてからにして。医師が言うには、あなたが気を失った原因の一つは極度の空腹だったって」
考えてみれば、綾音は誘拐されていて、ずっとまともに食事を取れていなかっただろう。たとえ誘拐犯が何か食べ物を与えていたとしても、それほど多くはなかったはずだ。
「食べる気がしない」山本綾音は言った。今の彼女には、食事をする気持ちなどなかった。