山本綾音の目に涙が溢れ、遠くにいるその人を貪るように見つめていた。永遠にこうして見ていたいと思った。
そうか、彼のことをこんなにも愛していたのだと。この間会わないでいれば、少しずつ忘れていけると思っていた。
でも今、彼に会って初めて分かった。全然忘れられていなかったのだと。
「お兄さんは今、工藤蔓子さんとお見合いしているのよ。もし本当にお兄さんのことが好きなら、行って会いに行けばいいじゃない!」温井澄蓮は山本綾音の耳元で囁いた。
山本綾音は一瞬固まり、ゆっくりと温井澄蓮の方を向いた。「どうして?」
「何がどうしてよ。お兄さんが他の女性のものになるのを、黙って見ているつもり?」温井澄蓮は言った。
「私のことを嫌いなはずなのに、どうしてお見合いを邪魔しろって言うの?朝岚さんと工藤さんのお見合いがうまくいけば、あなたたちにとってもいいことじゃないの?」温井家と高橋家の縁組みについて、そのメリットはネット上の噂でも触れられていて、山本綾音もある程度理解していた。