山本綾音の目に涙が溢れ、遠くにいるその人を貪るように見つめていた。永遠にこうして見ていたいと思った。
そうか、彼のことをこんなにも愛していたのだと。この間会わないでいれば、少しずつ忘れていけると思っていた。
でも今、彼に会って初めて分かった。全然忘れられていなかったのだと。
「お兄さんは今、工藤蔓子さんとお見合いしているのよ。もし本当にお兄さんのことが好きなら、行って会いに行けばいいじゃない!」温井澄蓮は山本綾音の耳元で囁いた。
山本綾音は一瞬固まり、ゆっくりと温井澄蓮の方を向いた。「どうして?」
「何がどうしてよ。お兄さんが他の女性のものになるのを、黙って見ているつもり?」温井澄蓮は言った。
「私のことを嫌いなはずなのに、どうしてお見合いを邪魔しろって言うの?朝岚さんと工藤さんのお見合いがうまくいけば、あなたたちにとってもいいことじゃないの?」温井家と高橋家の縁組みについて、そのメリットはネット上の噂でも触れられていて、山本綾音もある程度理解していた。
それに……
彼女は温井朝岚の向かいに座っている高橋家のお嬢様に目を向けた。
洗練された美しい容姿、上質な服装、まるでドラマに出てくる名家のお嬢様のよう。そんな人と朝岚が一緒にいると、とても似合っていて、まるで絵に描いたような……素敵なカップルに見えた。
これが所謂釣り合いの取れた相手というものなのだろう。
「二人、本当に素敵な感じね」山本綾音は呟いた。
「何が素敵よ!お兄さんは工藤蔓子のことなんて全然好きじゃないわ!」温井澄蓮は言った。「私はあなたのことはあまり好きじゃないけど、お兄さんはあなたのことが好きなの。好きでもない女性と結婚するくらいなら、あなたと一緒になった方がましよ!」
山本綾音は苦笑した。「あなたのお兄さんは今、私のことも同じように何も感じていないわ」
病院で、朝岚は他人を見るような目で彼女を見ていた。
「だったら頑張ってお兄さんの記憶を取り戻させればいいじゃない。山本綾音、あなた諦めるの早すぎないかしら?私のお兄さんより良い人、あなたのことをもっと愛してくれる人なんて、これから先出会えないかもしれないのよ!」温井澄蓮は苛立たしげに言った。