仁藤心春は医者の言葉にあまり反応を示さなかったが、傍らにいた山本綾音は聞いて興奮を隠せなかった。
田中悠仁!
もしこの世界で心春と血縁関係がある人がいるとすれば、それは母親が同じで父親が違う弟の田中悠仁しかいないはずだ。
骨髄の適合は、親族だからといって必ずしも成功するわけではないが、少なくとも確率は高くなるはずだ!
もし本当に適合すれば、心春は助かる可能性がある!
しかし山本綾音の予想に反して、仁藤心春の医者への返答は——「私には骨髄を適合できる親族はいません!だから骨髄移植については、期待はしていません。」
病院の外来棟を出てから、山本綾音は言った。「悠仁という弟さんがいるじゃない。もし悠仁くんと骨髄が適合すれば、あなたは……」
「綾音!」仁藤心春は山本綾音の言葉を遮った。「私は悠仁にこのことを知らせるつもりはないの。」