あなたには愛する人がいますか

仁藤心春の足取りが一瞬止まった。

このような宴会で温井卿介を見かけることは、特に不思議なことではなかった。今は老人の遺言がまだ公表されていないとはいえ、誰の目にも明らかだったのは、おそらく今後温井家の実権が温井卿介の手に渡るということだった。

今や塩浜市では、温井卿介に取り入ろうとする人々が後を絶たなかった。

高橋家は温井朝岚側と手を組もうとしているとはいえ、少なくとも今の時点では表立って温井卿介と対立することはなく、当然彼も招待されていたのだ!

彼の周りには、心春が普段テレビでしか見られない著名人たちが群がっており、その中には最近人気急上昇中の女優、風間花乃の姿もあった。

風間花乃は美しく、今はまた宝石をちりばめた高級ブランドのドレスに身を包み、その魅惑的な体つきを際立たせていた。

このような女性は、普段であれば間違いなく多くの男性から熱い視線を集める存在だ。

しかし今、彼女は温井卿介の傍らで親しげな表情を浮かべ、その艶やかな瞳には卿介への憧れが満ちていた。

風間花乃を見つめながら、心春の胸が急に重くなった。そうだ、温井卿介のような男性は、多くの女性が近づきたいと思う存在で、風間花乃もその一人に過ぎない。

「どうして止まったの?ああ、男を見てたのか。目の付け所がいいね、一番権力のある男を見つめるなんて!」工藤鋭介の嘲るような声が上がった。

仁藤心春の表情が一瞬こわばり、山本綾音も友人が温井卿介を見つけたことに気づき、心配そうに心春を見つめた。

「そういえば、あの男は温井朝岚の従弟だよな!将来温井家は彼のものになるって噂だけど、ふん、温井家が本当に温井卿介のものになるかどうかは、まだわからないがな!」工藤鋭介は意味ありげに言い、そして心春を見て、「そんな男は、お前みたいな身分の者には手が届かないよ。お前の親友の例を見ろよ、分不相応な人を望んではいけないってことだ!」

「どうしてそんなことを言うの……」山本綾音は友人のために抗議せずにはいられなかった。自分が見下されるのはいいが、心春がそんな扱いを受けるのは許せなかった。

しかも心春は温井卿介の「お姉さん」なのに!