傍観する

この見覚えのある、頭から酒を浴びせられる感覚に、山本綾音は全身に寒気が走るのを感じた。

顔中を伝う酒が、髪の毛から、頸筋へと流れ落ち、服にまで染み込んでいく。まつ毛にまでべっとりと酒が付着していた。

ただし今回、彼女に酒を浴びせたのは、工藤鋭介ではなく、工藤蔓子だった。

「綾音!」傍にいた仁藤心春が駆け寄ろうとしたが、工藤鋭介が連れてきた二人の手下に阻まれた。

工藤蔓子は酒を浴びせられた山本綾音には目もくれず、にこやかに温井朝岚の方を向いて言った。「あなたは気にしないわよね。」

温井朝岚は今や表情を険しくさせていた。「なぜこんなことを?」

「前回、私があなたとお見合いした時、この女もクラブに来ていたわ。こういう女は、あなたと別れても、まだ未練を持ち続けるものよ。もしあなたが本当にこの女に愛情を感じていないのなら、私が懲らしめることにも文句はないでしょう。」工藤蔓子は笑みを浮かべながら言った。