仁藤心春は気を失い、秋山瑛真は急いで彼女を抱き上げた。その場を離れようとしたとき、山本綾音は緊張した様子で傍らについていたが、まさに一緒に立ち去ろうとした瞬間、高橋家の部下たちが突然彼らの行く手を遮った。
「秋山様、その女性を連れて行くのは構いませんが、山本綾音は残してもらいます!」工藤蔓子は傲慢に言った。
秋山瑛真は冷たい目で工藤蔓子を見つめ、「私は彼女に、山本綾音も一緒に連れて行くと約束したんだ!」と言った。
「お忘れですか?今日はここは高橋家の周年記念パーティーです。山本綾音は高橋家に逆らった以上、私たちが懲らしめなければなりません。秋山様は口を出さない方がいいでしょう」工藤蔓子は事実を歪めて言った。
山本綾音は腹が立って仕方がなかったが、今は何よりも心春を早く病院に連れて行くことが重要だった。
彼女が瑛真に先に心春を連れて行ってもらおうと口を開こうとした時、秋山瑛真が先に「山本綾音は必ず私と一緒に行く。もし高橋家が本当に止めるつもりなら、それは私と敵対することになる。これからは、高橋家と私秋山瑛真は、死に物狂いの仲になる。それでもいいのか?」と言い放った。
この言葉に、高橋家の人々は皆顔色を変えた。
工藤蔓子の表情は特に険しくなった。
工藤鋭介は姉の側に寄り、小声で「お姉さん、山本綾音一人のために、そこまでする価値はありません」と言った。
工藤蔓子も当然わかっていた。山本綾音のために秋山瑛真のような人物と敵対することは、完全に損失の方が大きいということを。
しかし今日は確かに彼女が山本綾音に教訓を与え、ついでに温井朝岚にも威厳を示そうとしていた。元カノなんて自分の前では何の価値もないということを温井朝岚に分からせようとしていたのだ。
しかし今となっては、まるで自分が威厳を失ったかのようで、この屈辱をどう飲み込めばいいのかわからなかった。
「彼らを行かせなさい!」突然、温井朝岚の声が響いた。