彼女が姉でなくて良かった

「彼にはそもそもそんな義務はないのよ」仁藤心春は淡々と答えた。

「だから、彼がそんな風にあなたを扱っても、あなたは少しも恨まず、それでも彼に優しくするんですね?」秋山瑛真は呟いた。「どうして?」

「彼は私の弟だから」まるでその答えが全てを物語っているかのように。

そう、この世で唯一血のつながった肉親なのだ。

悠仁に対して、彼女は恨みを持っていない。ただ残念で悲しいだけだった。彼女は二人の関係が徐々に近づいていると思っていたが、結局それは彼女の一方的な思い込みに過ぎなかった。

やはり、期待すれば失望も苦しみも大きくなるものだ。

悠仁に対しても、温井卿介に対しても、そして目の前の……心春は瑛真の顔に視線を向けた。「私、明日退院するつもり。それと、もう私のことに関わらないで。今日のようなことは、これで終わりにして」