山本綾音は親友が退院したことを知り、急いで仁藤心春のアパートに駆けつけた。「今退院するのは早すぎじゃない?もう少し病院で検査を受けた方が…」
「どうせ病院に残っても、受けられる治療はほとんど同じよ。退院すれば、好きなことができるでしょう」と心春は言った。
山本綾音は思わず目に涙が溢れてきた。親友の言葉は、まるでこの世界に別れを告げる臨終の言葉のようだった。
「ねえ…悠仁に頼んでみない?骨髄提供に同意してくれるかもしれないわ。ほんの少しの骨髓だし、彼の体にも害はないはずだし…」
「綾音、もういいの」心春は遮って言った。「悠仁を探さないで。もうこのことで何度も失望したくないの。綾音、分かる?時々、失望は死ぬより辛いのよ」
山本綾音は鼻が痛くなった。親友がどんな経験をしてきたか、よく分かっていた。むしろ、親友が田中悠仁のところで何度も失望する姿を見てきたのだ。
「今は医学も進んでいるし、私を治療しているのは最高の医療チームだから、きっと病気も好転するかもしれないわ」と心春は楽観的に言った。
この時、山本綾音は秋山瑛真が集めた専門家チームが本当に実力を持っていることを願うばかりだった!
「じゃあ、退院したら何がしたいの?」と山本綾音は尋ねた。
「もう少し考えてみるわ。決まったら言うね」と心春は答えた。
しかし山本綾音は、翌日心春を訪ねた時、彼女がすでに他の都市行きの新幹線に乗っているとは思いもよらなかった。
そして、その説明は「他の都市を旅行してみたいの。前からずっと行きたかったから」というものだった。
「それなら私に言ってくれれば、一緒に行けたのに!」と山本綾音は心配そうに言った。今の親友の体調では、どうしても安心できなかった。
「あなたはご両親の面倒を見なきゃいけないでしょう。それに、たった一週間だけよ」と心春は言った。「心配しないで。位置情報を送るし、毎日電話もするから。大丈夫よ」
親友がそう言っても、山本綾音が本当に安心できるはずがなかった。
しかし、心春はもう新幹線に乗ってしまっている。山本綾音が追いかけたくても、それは簡単ではない。切符を買うことだけでなく、両親のこともある。
あれこれ考えた末、山本綾音はGGKのオフィスビルに向かった。