彼は一生涯、彼女だけを愛する

仁藤心春が振り向くと、温井卿介が拍手をしているのが目に入った。その美しい顔には今や傷が付いており、漆黒の鋭い瞳には暗い影が宿っていた。

「感動的だね。秋山瑛真を守るためにそこまで命を懸けられるなんて」温井卿介は皮肉を込めて言った。「やはり、この世で一番当てにならないのは感情だな」

つい先ほどまで、この女は自分のことを想っていたはずなのに、今では明らかに別の男に心が移っている。

その事実に気付き、彼の胸の中で渦巻く嫉妬の念はより一層強くなった。

仁藤心春は冷静に言った。「瑛真が私の側にいてくれるなら、彼のために命を懸けることに何の問題があるの?」

その言葉を聞いた後ろの秋山瑛真は、体が震え、目には信じられない表情が浮かんでいた。

「今日は彼のために命を懸けて、今度は誰のために命を懸けるんだ?仁藤心春、お前の命は本当に安いものだな」温井卿介の声はさらに冷たくなった。

仁藤心春は温井卿介をまっすぐ見つめ、「私の命が安いか高いかは、あなたが決めることじゃない。私自身が決めることよ」

「お前は——」彼女を睨みつけた。

仁藤心春は秋山瑛真の方を向いて言った。「行きましょう。まず病院に行きましょう」

「この程度の怪我なら、病院なんて必要ない」秋山瑛真は言った。

「言うことを聞いて」彼女は言った。

その二言は、彼女の側にいた二人の男を同時に驚かせた。

秋山瑛真は突然、子供の頃に戻ったような気分になった。あの頃、彼が駄々をこねた時、彼女はいつもこの言葉を言っていた。

他の人がこう言ったら、おそらく反感を買うだけだろう。

しかし不思議なことに、彼女が言うと、その柔らかく優しい声に、思わず従ってしまう。

「わかった」秋山瑛真は素直に答えた。

周りの人々は皆驚嘆した。先ほどまで激しく戦っていた秋山会長が、この女性の前では、まるで素直な子供のようになっているのだから。

仁藤心春が秋山瑛真の手を取り、群衆の輪から出ようとした時、秋山瑛真は突然振り返り、温井卿介に向かって言った。「さっき、お前の言った一つだけは正しかった。俺は確かに彼女を愛している。この人生で、彼女一人しか愛さない!」

周りから一斉にため息が漏れた。誰も秋山瑛真がこのような告白をするとは思っていなかった。

しかも「この人生で」「一人だけ」というような言葉まで使って。