二人が病院に着いた後も、仁藤心春は先ほどの秋山瑛真の言葉に心が震えていた。
医者が秋山瑛真の怪我を診察したが、幸い今の彼の姿は少し惨めではあるものの、すべて表面的な傷で大したことはなかった。
病院で薬をもらい、二人はタクシーに乗ってホテルに戻った。
道中、仁藤心春は俯いたまま、どんな表情で彼に向き合えばいいのかさえわからなかった。
瑛真が彼女を愛している?もし彼があんなに真剣な表情で言わなかったら、彼女は本気にしなかっただろう。
でも、彼はいつ彼女を好きになったのだろう?
確かに以前は彼女のことをとても嫌っていたはずなのに。今は二人の関係が徐々に良くなってきているとはいえ...感情がこんなに早く変わることができるのだろうか?
ホテルの部屋の前で、仁藤心春は俯いたまま、ドアを開けて中に入った。
突然、一本の手が彼女の行く手を遮った。「まだ僕を見てくれないの?」
彼女は驚いて、不安そうに彼を見上げた。
「僕が愛してるって言ったから、僕を見たくないの?僕が愛してることが嫌なの?」秋山瑛真は尋ねた。
仁藤心春は軽く唇を噛んで、「あなたが...私のことを愛してるって、弟がお姉さんを愛する気持ちってこと?」
秋山瑛真はその言葉を聞いて、突然大きく笑い出した。「僕の愛を受け入れたくないから、そんな言い訳をするの?」
その笑い声には、苦みと自嘲が満ちていた。
「違うの、私はただ...」彼女は言葉に詰まった。
彼は真っ直ぐに彼女を見つめた。「仁藤心春、僕は君を愛している。弟がお姉さんを愛する気持ちじゃない。男が女を愛する気持ちだ!」
「でも、前は私のことを嫌っていたじゃない?」彼女は言った。
「愛しすぎたから、だからこそ君が僕と父を捨てて、あんなに苦しい思いをさせたことを恨んでいた。」秋山瑛真は呟くように言った。「でも今はわかった。君は一度も僕たちを捨てたことなんてなかったんだって!」
彼女が黙っていると、彼は彼女に近づいた。「それに、僕が君を愛しているのは罪悪感からじゃないと思わないで。僕は罪悪感で誰かを愛したりしない。今の僕の気持ちがどういうものか、はっきりわかってる。」
仁藤心春は苦笑いを浮かべた。「でも私はあなたに...」
彼女の言葉は、彼の指が唇に触れたことで途切れた。
彼女の唇は彼の指に触れ、その冷たい指は微かに震えていた。