仁藤心春はホテルで秋山瑛真と一緒に昼食を済ませてから、千仏寺へと向かった。
千仏寺は広島の有名な観光スポットで、周辺には多くの古跡や言い伝えがあり、その中で最も有名なのは、寺院内にある縁結びの木についての物語だった。この木は、かつて一組の恋人が寺に逃げ込んだ際に植えたものだと言われている。
その恋人たちは木を植えた後、いつかまた必ずここに戻ってくると誓い合った。
その後、戦乱により二人は離ればなれになり、何年も経って、男は寺で修行をしていたが、情を捨てきれず、ずっとこの木を守り続けた。そして彼が白髪になった頃、ある人が女性の遺骨を持ってここにやってきた。
実は女性は離ればなれになった後、記憶を失っていた。ただ一つ覚えていたのは、ある木を探さなければならないこと、そしてその木の下で誰かと再会するということだけだった。
しかし、その木がどこにあるのか、再会するべき人が誰なのかを思い出せなかった。
そうして女性は静かに余生を過ごし、結婚はせずに多くの子供たちを養子として育てた。そして死の間際になって、ようやくその木が千仏寺にあること、そして再会するべき人が夫だったことを思い出したのだ!
そこで養子たちは彼女の願いを叶えるため、死後、彼女の遺骨を寺院に持ってきたのだった。
男は女性の遺骨を見て、雨のように涙を流した。遺体は既に腐敗し悪臭を放っていたが、男は宝物のようにその遺骨を抱きしめた。
翌日、男は女性の遺体を抱きしめたまま、木の下で入寂した。後の人々は二人の遺骨を一緒にこの木の下に埋葬した。
以前、仁藤心春がこの話を聞いた時、このような愛に憧れを抱いていた。
いつか、自分の最愛の人とここに来ることを夢見ていた。
山田流真と一緒に来ることになるだろうと思っていた。
しかし、今、彼女に付き添ってここに来た人は……
仁藤心春の視線は、自然と隣に立つ秋山瑛真に向けられた。
「どうしたの?そんなに見つめて」と彼は言った。
「運命って時々不思議だなって思って。以前は、あなたと一緒にこの木を見に来るなんて考えもしなかった」と心春は呟いた。
「僕と君は恋人同士じゃないから、僕と一緒にここに来るのは変だと思う?」と瑛真は問い返した。
「あなたもこの木の言い伝えを知っているの?」と心春は尋ねた。