山本綾音は驚いて、同じ病室にいた秋山瑛真は、すでに先に飛び出していた。
山本綾音は急いで追いかけ、病室の外で坂下倩乃が必死に仁藤心春に向かって突進しているのを目にした。仁藤心春に付き添っていた看護師は心春を後ろに庇い、他の数人の看護師も前に出て坂下倩乃を押さえていた。
しかしその時、坂下倩乃は狂ったかのように、突然短刀を取り出した。
周囲から一斉に息を飲む音が聞こえた。
元々坂下倩乃を止めていた看護師たちも、みな後ずさりした。今の坂下倩乃は完全に狂気に取り憑かれたようで、次にナイフで無差別に切りつけてくるかもしれないからだ。
「仁藤心春、全部あんたのせいよ。あんたがいなければ、私がこんな目に遭うことはなかった。私を台無しにしたのはあんたよ!死んでしまえ!」
坂下倩乃の言葉が終わるや否や、彼女は手にした短刀を仁藤心春に向かって振り下ろした。
「危ない!」山本綾音は叫び、坂下倩乃を止めようと駆け出した。
ぷすっ
それは短刀が肉を貫く音だった。
山本綾音は、自分より早く心春の前に立ちはだかった秋山瑛真を驚きの目で見つめた。
坂下倩乃の短刀は秋山瑛真の腕に突き刺さり、次の瞬間、瑛真は足を上げ、坂下倩乃を蹴り飛ばした。
坂下倩乃は壁に叩きつけられ、顔中に苦痛の色を浮かべていた。
周りの看護師たちは素早く反応し、武器を失った坂下倩乃を数人がかりで取り押さえ、誰かが警備室に電話をかけて警備員を呼んだ。
他の看護師は急いで秋山瑛真の側に寄り、腕の傷を確認した。
仁藤心春は目の前の男性を呆然と見つめていた。短刀は依然として彼の腕に刺さったままで、見ているだけで背筋が凍る光景だった。
もし彼が飛び出して彼女の前に立ちはだからなかったら、先ほどの坂下倩乃の一撃は彼女の胸を貫いていたはずだった。
「どうして……」彼女は呟くように尋ねた。
どうして彼は彼女のためにこの一刀を受けたのだろう?
秋山瑛真は言った。「私は約束したはずだ。君を守ると。だから、これからはこういうことで理由を聞く必要はない」
なぜなら、彼にとってこれは当然のことだったから。
「秋山様、今すぐ手術が必要です。すぐに医師に連絡を取り、緊急手術の準備をいたします」看護師は携帯電話を取り出しながら言い、電話の向こうに秋山瑛真の負傷状態を説明した。