彼女が取引材料として使えるのは、この命しかなかったのだから。
「悠仁に会いたい!」彼女は再び繰り返した。
「この手術があなたにとってどれほど重要か、分かっているはずだ」彼の声には苦みが満ちていた。
「分かっているからこそ、会いたいの」仁藤心春は言った。
二人は見つめ合ったまま、その間に漂う空気に、傍にいた山本綾音は一言も差し挟めないと感じた。
しばらくして、秋山瑛真はようやく「分かった。会わせてやる」と言った。
一時間後、仁藤心春は秋山瑛真に連れられて、とある豪邸に到着した。
その豪邸は実は病院からとても近かった。
仁藤心春が田中悠仁を見た時、思わず目が熱くなった。
彼は一室に閉じ込められており、周りには彼を監視するボディーガードが何人もいた。
彼はただ静かにソファに座り、本を読んでいた。彼女が部屋に入ると、顔を上げて彼女を見た。その美しい涼しげな瞳には、寂しさが漂っていた。