温井卿介!
彼がなんとここにいるなんて!
温井卿介は彼女の足音を聞いたようで、彼女の方向に振り向いた。
二人の視線が、空中で交差した。
仁藤心春は少し躊躇したが、結局足を進めて、温井文風の墓石へと向かった。
結局、これが最後の訪問になるかもしれないのだから。
もうすぐ、彼女の体調は悪化するだろう。そうなれば、歩くことすらできるかどうかわからない。
墓石の前に着くと、仁藤心春は手に提げていたかごを下ろし、その中から花屋で買ってきた花束を取り出して、墓前に置いた。
「なぜここに来たんだ?」温井卿介の声が、突然響いた。
「ただ急に温井おじさんにお参りしたくなっただけです。お参りが済んだら、すぐに帰ります。あなたの邪魔はしませんから」と仁藤心春は言った。
「お前がここにいること自体が邪魔なんだ」温井卿介は冷たく言った。